これは豚肉の話

ブランド豚よりシングルオリジン!? 生産頭数130頭の希少豚って?

昨今の肉ブーム、プチ贅沢志向を受けて、ブランド豚の人気も急上昇。 有名なブランド豚はいくつかありますが、「シングルオリジンポーク」って? と思われたかもしれませんね。 シングルオリジンはコーヒーの分野で注目されている言葉で、 「1つの農園で採れたコーヒー豆」という意味。 豚肉にも、 1つの農場で1人の生産者が作っているブランド豚 があるんです。

そんなシングルオリジンポークを含め、日本には400以上のブランド豚があるって知ってました? スーパーで手に入るようなものから、めったにお目にかかれない希少豚まで、知れば知るほど奥深いブランド豚。

せっかくの美味しいお肉、食べておしまいじゃもったいないと思いませんか? 話のタネに、豊かな食経験を積み重ねるために、知っておいて損はないブランド豚の情報をまとめました。

そもそもブランド豚とは?

ブランド豚と聞いて、パッと思い思い浮かぶのは5~6種類でしょうか。 「かごしま黒豚」や沖縄の「アグー豚」、「TOKYO X(トウキョウエックス)」 などは有名ですね。海外のブランド豚では、スペインの「イベリコ豚」、中国の「金華豚」がよく知られています。

ブランド豚は銘柄豚とも言いますが、日本だけでも400種類以上あります。 株式会社食肉通信社が発行する『銘柄豚肉ハンドブック 2020』には420銘柄が掲載されています。

『銘柄豚肉ハンドブック』は、都道府県や生産組合等へのアンケート調査を取りまとめ、2~4年ごとに刊行されているもの。商標登録されている銘柄ばかりではありませんが、銘柄数は2000年の179から大きく増加しています。

豚肉ってそんなに種類があるの?と思われるでしょうが、ブランド豚は品種の違いを指す言葉ではありません。もちろん品種の違いもありますが、餌や飼養環境などを工夫して、独自にブランド化しているものが大半です。『銘柄豚肉ハンドブック2014』によれば、掲載されている398銘柄のうち、品種等でブランド化しているのは58銘柄(15%)、飼養管理で差別化しているのが16銘柄(4%)、飼料等を工夫しているのが311銘柄(78%)となっています。

品種で違いを打ち出している代表的なブランド豚がバークシャー種の「かごしま黒豚」です。他には、沖縄在来アグー種の「アグー豚」、中ヨークシャー種の「ダイヤモンドポーク」などがあります。

国産豚肉の75%以上は「三元豚」

ところで、スーパーや飲食店などで見かける「三元豚(さんげんとん)」もブランド 豚だと思っていませんか?三元豚とは、3種類の品種を掛け合わせた豚のこと。 「三元交配豚」とも呼びます。

豚の主な品種は、大ヨークシャー種、バークシャー種、ランドレース種、デュロック種、ハンプシャー種の5つで、それぞれ長所と短所があるため、掛け合わせてバランスをとるわけです。

例えば、黒豚(バークシャー種)などの純血種は、非常にデリケートで病気に弱いといった特徴があります。三元交配は、それぞれの品種の良いところが引き継がれやすいため、肉質が良く、病気に強い豚になるのです。

上記の5つ以外にも掛け合わせに使われる品種がいくつかあるので、3種の組み合わせ方は非常にたくさんあります。でも実際は、日本の三元豚のほとんどが「LWD」。ランドレース(L)と大ヨークシャー(W)を交配させて生まれた雌豚に、 デュロック(D)の雄豚を掛け合わせたものです。これが国産豚肉の70~80%を占めると言われています。

「SPF豚」は育て方の違い

LWDの三元豚は日本人好みの味わいで人気がありますが、日本で一番多く出回っている豚なので、ブランドにはなりません。そこで、餌や育て方を工夫して差別化を図るのです。

餌は通常、トウモロコシが使われますが、麦や米や芋などを与えることで肉質が違ってきます。その他、ハーブ、にんにく、レンコン、きな粉、納豆、乳酸菌など、 地域の特産品や栄養価の高い原料を混ぜ、独自性を出しているブランド豚も少なくありません。

また、『銘柄豚肉ハンドブック2014』によると、飼養管理(育て方)でブランド化している16銘柄のうち、3銘柄は「放牧」、残りの13銘柄は「SPF」でした。放牧はなんとなく分かりますね。SPFはイメージしにくいのではないでしょうか。

SPFはSpecific Pathogen Freeの略で、「特定の病原体をもっていない」という意味。つまり、豚がよくかかる病気に感染しないように、清潔な環境で注意して育てているのが「SPF豚」です。ちなみに、SPF豚は無菌豚ではありませんので、お間違いなきよう。

ブランド豚は言ったもん勝ち

ブランド豚は日本全国に400以上あると言われますが、正確な数は分かっていません。というのも、ブランド豚には明確な定義がなく、客観的に評価したり認証したりする機関もないため、誰かが「〇〇豚」と名付けてブランド豚だと主張すれば、 それが通ってしまうのです。

さらに言えば、ブランド豚を作るのに商標登録の取得も必須条件ではありません。2015年の調査では、商標登録を取得していない銘柄が4割ほどあったそうです。

また、ブランド豚を生産するための規約を持たない銘柄も5割以上。冒頭で述べた「シングルオリジンポーク」のように、単一生産者・単一農場の場合は、生産者が自分で決めた方法を実施すればいいだけなので、明文化した規約などは必要ないのかもしれません。

でも、複数の生産者が県をまたいで同じブランド豚を作っている場合は、 しっかりとした規約がないと、品質を維持するのは難しいでしょう。ブランドは「品質の保証」という面も大きいので、バラツキを小さくすることが重要です。

出荷量が多いブランド豚の中には、農協などの団体や食肉メーカーが規約や基準を設けて管理している銘柄もありますが、差別化への整備が十分とは言えない銘柄も多くあるのが現状です。

ブランド豚自体は珍しくない

ここまで読むと、ブランド豚のイメージがだいぶ変わってきたのではないでしょうか。ブランド豚は美味しいに違いない!と思っていた人にとっては、これも意外かもしれませんが、2014年の時点で、国内に出荷される豚の約半数がブランド豚なのだそう。

豚肉の自給率は約50%なので、単純に考えれば、日本に出回っている豚肉の 4分の1はブランド豚ということになりますね。今はもっと増えているでしょうから、 日常的に食べている人も少なくないと思います。

例えば、スーパーでも買える「和豚(わとん)もちぶた」は、日本で最も出荷量が多いブランド豚。全国に約80の農場があり、2015年の年間出荷頭数は約52万頭でした。「かごしま黒豚」は18万頭弱で、こちらも1銘柄あたりの出荷頭数としては かなり多いほうです。

一方で年間数百頭しか出荷されていないブランド豚もあります。珍しければ良いというわけではありませんが、めったに食べられない希少豚なら話のタネになるでしょうし、贈り物にしてもインパクト抜群。そんな希少性の高いブランド豚に出会うためのキーワードが「シングルオリジンポーク」です。

シングルオリジンポークの魅力

コーヒー好きの人なら、「シングルオリジン」と聞けばピンとくるのではないでしょうか。シングルオリジンコーヒーは、生産国や豆の品種のような大きなカテゴリーではなく、単一農園で作られた生産者が特定できるコーヒーのこと。

同じブラジル産でも農園ごとに土壌などの環境が異なるため、 生産者はその土地に合ったコーヒー豆を、その土地に合う方法で作ります。 それが風味の個性になるわけですが、ほとんどのコーヒー豆は 出荷の段階で同じ場所に集められるので、複数の農園のものが混じってしまうのです。混合されることで複雑な風味が生まれるという面もありますが、コーヒー豆ごとの個性が感じられなくなったり、トレーサビリティ(追跡可能性)を辿りにくくなったりします。

その点、シングルオリジンコーヒーは「顔が見えるコーヒー」と呼ばれ、トレーサビリティに優れているのが魅力。誰がどんな風に作ったか、生産者の仕事ぶりに思いを馳せながら楽しむコーヒーは格別でしょう。

ブランド豚もコーヒー豆とよく似ていて、シングルオリジンポーク以外のブランド豚は複数の農場で生産され、それを集めて同じ銘柄で販売されます。牛肉のようにトレーサビリティが義務化されていないため、銘柄を見ただけでは誰が作ったのか分からないのです。

一方のシングルオリジンポークは単一生産者・単一農場なので、こだわりを強く感じられます。特に、生産者の名前を冠したブランド豚は、自信や責任の表れと言えるかもしれません。

個人名を冠したシングルオリジンポーク

有名なブランド豚もいいけれど、ちょっと冒険するなら、 生産者の顔が見えるシングルオリジンポークはいかがでしょうか。

単一生産者・単一農場というだけあって、出荷数が少なく、手に入る場所は 限られていますが、一度食べてみていただきたいのが「湘南みやじ豚」です。

湘南みやじ豚は、その名の通り、湘南(神奈川県藤沢市)の 宮治(みやじ)家が作るブランド豚。月に約130頭しか出荷されない希少豚で、 プロ向け食材として料理人から支持されています。

一般の人が買えるのは、松屋銀座の精肉店「銀座初音」とオンラインショップのみ。人気の部位は売り切れの場合もありますが、無添加ソーセージやジャーキーなどの加工品もあり、家飲みのおともやギフトにおすすめです。

湘南みやじ豚のオンラインショップはこちら

湘南みやじ豚がプロから支持される理由

品質の高さはもちろんですが、バラツキが少ないことは、飲食店にとっては特に重要。湘南みやじ豚は、自分たちできちんと育てられる数しか生産しないので、 高い水準で一定の品質が保たれています。

そして、見るからに美味しそうな桜色の筋肉と真っ白な脂肪が湘南みやじ豚の特徴。ドリップが出にくいことも高く評価されています。ドリップは肉の細胞が壊れ、栄養素や旨味成分が失われている証拠。日持ちにも関わってくるので、料理人は見逃しません。

さらに、旨味成分の遊離グルタミン酸が豊富で、一般的な銘柄豚の2倍近くも含まれています。良質な脂の指標とされるオレイン酸の比率が高く、 摂り過ぎが懸念されるリノール酸は低いことが分かっています。

湘南みやじ豚の旨さの秘訣

湘南みやじ豚のこだわり

湘南みやじ豚の品種は、日本で一番多い三元豚です。大きく育つランドレースと繁殖力の強い大ヨークシャー、肉質が良いデュロックの掛け合わせは、本来大量生産に向いている品種ですが、湘南みやじ豚は効率を捨てて、本物の美味しさを追求しています。

繊細な旨味を生み出すためにこだわっているのが、「飼料」「飼育」「血統」です。飼料はトウモロコシを使うのが一般的ですが、湘南みやじ豚は麦類・芋類・米を食べて育ちます。食べたものが肉や脂肪になるため、飼料の配合が味の決め手と言えるでしょう。

また、豚の場合は飼育環境も重要。狭いところに押し込められたりすると、ストレスで病気になりやすくなるため、20頭は入るスペースに、10頭程度の兄妹豚だけを入れ、のびのびと育てています。

肉質は遺伝子によって決まる部分も大きいため、血統も大切です。長年養豚に携わっていると、親豚の肉のつき具合や歩き方を見れば、良い肉質の豚が生まれるどうか分かります。その目利きが、高品質でバラツキの少ないブランド豚を支えているのです。

湘南みやじ豚の原点

湘南みやじ豚を生産する宮治家は代々続く農家の家系で、1966年から養豚を開始。2006年にブランドを立ち上げるまでは、地域の銘柄豚として市場に出荷していました。

当時から品質の高さに定評がありましたが、「きつい・汚い・稼げない」家業を 息子に継がせる気はなかった先代。これに違和感を持った4代目(現社長)が、 「かっこよくて・感動があって・稼げる」新たな一次産業を確立したいと考え、 湘南みやじ豚のブランド化に取り組みはじめたのです。

一頭一頭、愛情をかけて育てた豚を直販できる仕組みを作り、 バーベキューイベントで地域の消費者や生産者とつながっていきました。 バーベキューは湘南みやじ豚の原点です。4代目が学生時代に開いたバーベキューパーティーで、「宮治の家の豚ってこんなに旨いんだ!どこで買えるの?」という 友人の一言がビジネスのヒント。湘南みやじ豚を知ってもらうには、とにかく食べてもらうことだと考えたのです。

バーベキューでシンプルに焼いた肉の美味しさが評判を呼び、飲食店からの注文が入るようになると、ファンがどんどん増えていきました。みやじ豚バーベキューも名物イベントとなり、様々な食の専門家とのコラボレーションが楽しめる場へと進化しています。

湘みやじ豚バーベキュー

まとめ

国産豚肉の約半数を占めるブランド豚。牛肉や地鶏のような明確な基準や規格がないため、個々の生産者がシングルオリジンのブランド豚を立ち上げるのは比較的容易です。

けれども、400以上ものブランド豚がある中で、個性を打ち出して定着させるのは至難の業。当然ながら一定以上の品質でなければ、自然に淘汰されていくでしょう。

そんな過当競争を勝ち抜いてきた「湘南みやじ豚」。月に約130頭という小さな規模で15年以上ブランドを維持しているのは、根強いファンがついているからでしょう。それこそが、効率を捨てて本物を追求している証拠です。

数あるブランド豚の中でも、一度は味わってみたいシングルオリジンポーク。 おうちごはんで贅沢気分を味わいたい時や、気の利いたギフトを贈りたい時に、 検討してみてはいかがでしょうか。

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